長めの短編が読みたい
という人には九井諒子さんの「竜のかわいい七つの子」がおすすめですよ。
「竜のかわいい七つの子」は九井諒子さんデビュー2作目のマンガ短編集です。
2012年にエンターブレイン(現KADOKAWA)から発売されました。
「マンガ大賞2013」にノミネートされています。
全7編で20ページから50ページほどの短編を収めています。
50ページともなると短編としては長めですね。
それとは正反対に、ごく短い短編を集めた「ひきだしにテラリウム」という短編集も九井諒子さんは出しています。
「ひきだしにテラリウム」についてはこちらの記事を読んでみてくださいね。
「竜のかわいい七つの子」はひとつひとつの作品が本当によくできていて、絶妙なストーリー展開に魅了されますよ。
「竜のかわいい七つの子」九井諒子漫画短編集2作目は長めの話?
・ひとつひとつが長編映画になりそうな完成度
・脚本が巧妙
・ウィットの効いたやさしいオチ
・作品紹介(一部)
ひとつひとつが長編映画になりそうな完成度
「竜のかわいい七つの子」はひとつひとつの短編が長めで話の展開がしっかりしているので、まるでひとつひとつの話が長編映画のような感じです。
世界観も日本昔話風、中国故事風、現代風などバリエーション豊富ですよ。
脚本が巧妙
「竜のかわいい七つの子」を読むと、九井諒子さんのストーリーライティングのうまさに気づかされます。
九井諒子さんは代表作「ダンジョン飯」をはじめとしておもしろい設定がいっぱいなんですよね。
だから設定の独創性に目が行きがちなんですが、
「竜のかわいい七つの子」では設定だけじゃなくて脚本のうまさも光っています。
たとえば複雑な設定なのに「ト書き」が少ないんですよね。
「人魚のいるどこかの街の話―」と冒頭で世界観を説明してしまえば手間はないんですが、九井さんは世界観の説明をセリフに忍ばせたり、絵で説明したりして最小の表現で読者に伝えています。
だからくどくないんですよね。
また、セリフの無駄がないし、クライマックスへのもっていきかたも伏線もすごくきれいなんですよ。
読者が予想しそうな展開を軽めに裏切ってくれるところもニクいですね。
ウィットの効いたやさしいオチ
「竜のかわいい七つの子」は親子や家族がテーマの話を集めた作品集です。
かといって変に感動させるという方向ではなくて、少しウィットが効いたやさしいオチがいいです。
だから読後がさわやかな作品ばかりなんですよね。
作品紹介(一部)
「竜のかわいい七つの子」に収録されている作品を2つだけ紹介しますね。
・人魚禁漁区
・金なし白碌
人魚禁漁区
「人魚禁漁区」は現代の設定で、人魚が生息する海岸沿いの街が舞台です。
主人公の高校生・準が人魚との関わり合いをどうとらえていくかが話の軸になっています。
(ちなみに、この作品だけは親子がテーマになってるわけではないみたいです。)
「人魚禁漁区」の世界の人魚は、人と同じ形をしているけど人権は認められず、
話もできないし、知能も人間より少し劣るという複雑な設定です。
作中には、人魚の人権を守ろうとする団体と、動物として扱うべきだという立場の人たちとの対立をにおわせるシーンがあります。
単に「高校生と人魚との心の交流」で終わらない物語なのがすごいんですよね。
「人魚の人権問題」なんて人魚のいる世界に住んでいない私たちとっては考えなくていい問題ですよね?
なのになぜか考えさせられるという不思議な物語です。
金なし白碌
「金なし白碌」は架空の絵師・高川白碌の話です。
高齢の絵師、白碌は描いた絵がたちどころに紙から飛び出して命を持ってしまうほどの絵の達人。
それゆえ片目は描きませんでした。
しかしお金をだまし取られて一文無しに。
そこで考えたのが金持ちに売った絵に目をかき入れて、出てきた虎や獅子や龍を売ろうという作戦。
白碌は贋作の絵から飛び出した侍と馬とともに金持ちの家をたずね歩きます。
物語に出てくる屏風絵や襖絵がうますぎてまずびっくりします。
さて、この話の主人公・白碌の目的は「お金を稼ぐこと」ですよね?
でも、結末は「お金が稼げてめでたしめでたし」でも「お金が稼げなくてざんねん」でもないんですよね。
結末はなんともホロリとさせるものです。
絵から飛び出た侍がカギを握るんですが…。それは読んでのお楽しみです。
まとめ
「竜のかわいい七つの子」は九井諒子さんの長めの短編がじっくり読める作品集です。
長いだけでなく、ストーリー構成も巧妙なんですよね。
ぜひ読んでみてくださいね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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