こんにちは、きたはちです。
5巻以内や短編集など短いマンガをこよなく愛しています。
浄土るるさんのマンガ「浄土るる短編集 地獄色」が11月30日に発売されました!おめでとうございます!
浄土るるさんは17歳で投稿した作品、「鬼」がSNSで10万いいねを集め、同作が小学館 第84回新人コミック大賞 青年部門佳作に選ばれた鬼才です。
かわいらしい絵柄で描かれる陰鬱で残酷なストーリーはかなりショッキングです。ただし、それだけでなく先鋭的な表現と時代を反映した強いメッセージがある作品だと思います。心して読んでください。
浄土るる短編集 地獄色 概要
19歳の鬼才、降臨。衝撃の問題作、爆誕。
彗星のごとく現れSNS上の話題を一心に集めた“浄土るる”。
いじめを題材にし、SNS上で累計10万いいね獲得『鬼』や、幸せについて思いをめぐらす人間ではない生き物たちの苦悩を描いた『猫殴り』など目を離せないラインナップ。
さらに未発表の短編『こども』も収録し、圧倒的密度であなたに濃密な“気持ち”をお届けいたします。
浄土るる短編集 地獄色 Amazon商品詳細ページより引用
「地獄色」は全227ページで、収録作品はつぎの通りです。
猫殴り【第1話】人間じゃない
猫殴り【第2話】殴る
猫殴り【第3話】幸せ
鬼
神の沈黙
描き下ろし読切 こども
このうち、「猫殴り」の1話と「鬼」は公式で無料で読めます。浄土るるさんのマンガはかわいらしい顔で描かれた女の子がよく出てきます。かわいらしい顔の割に、体は大きめに描かれているのが特徴的です。
一番怖いのは「鬼」ですかね。母子家庭で母親から虐待を受ける主人公・江田小豆と転校してきて早々いじめを受ける渡辺ポンポコの物語です。救いのないストーリーに絶望感があふれます。
浄土るるとねこぢるの比較
浄土るるさんの作品を読んだときに思い浮かんだのが夭折した漫画家・ねこぢるさんです。
ねこぢるさんの作品は、猫の姉弟・にゃー子とにゃっ太をはじめとしたかわいらしいキャラクターと残酷な表現とのギャップが特徴です。この点は浄土るるさんと共通していますよね。
ねこぢるさんと浄土るるさんの違いは、ねこぢるさんはベースがギャグマンガなのに対し、浄土るるさんはそうでないことです。
ねこぢるさんのマンガの場合、ギャグマンガでいうところのオチがなんとなくあります。そのため、見ようによってはブラックジョークとして受け取ることができます。一方、浄土るるさんはギャグ的な絵の表現はありますが、あくまでシリアスなストーリーマンガであり、笑いは意識されていません。怖いですが、ホラーでもありません。ホラー漫画ならドキドキしたり気持ち悪かったりするはずですが、浄土るるさんのマンガは、ひたすら「うわぁ…」って感じです。わかりやすいエンターテイメント性を排した作風ですね。
猫殴り
「猫殴り」は、海から襲ってくる謎の生物「猫」に対抗するため、戦う運命を課せられた少女(?)たちの話です。「猫」はいわゆる動物の猫ではなく、2足歩行で体が大きく、少女たちを食ってしまうほど凶暴な生物です。少女たちは、ただ猫と戦う存在として猫殴り学校に毎日通い、「死んだら大天国に行ける」と言い聞かされ、戦い続けます。
この物語では、少女たちと人間との格差が描かれています。人間は少女たちが戦うのを尻目にのうのうと暮らし、少女たちは迫害すら受けています。
とりもなおさず、これは人間、もっと言えば日本の社会の格差を風刺していると言えます。この作品でいう猫を殴る運命から逃れられない少女たちは、理不尽な格差を感じている人々の隠喩です。少女たちは、絶望的な真実を知らされずに歯車となって働かされるサラリーマンのようです。
鬼
「鬼」では虐待といじめがテーマになっています。いじめられっ子の渡辺ポンポコに対して、江田小豆はあくまで友達として普通に接します。小豆は家では母親に虐待されているにも関わらず、学校では明るくふるまう健気な子です。虐待する小豆の母親も、学校のいじめっ子も心を入れかえてもらえればいいですが、そんなハッピーエンドにはなっていません。虐待といじめに対して恐怖と嫌悪を感じさせる内容です。
ただ、小豆がムカつくのもなんとなくわかります。虐待されているならもっと大人しそうな子になってもよさそうですが、小豆は「そんなものは意に介さない」と言わんばかりに明るいのです。ある種、反抗的にも見えます。だからといって、虐待されていい理由には決してなりませんが。
疑問①なぜバッドエンドなのか?
浄土るるさんの作品は総じてバッドエンドです。
社会を風刺しつつバッドエンドにもっていくのは、社会に対してのあきらめのメッセージを感じます。「ハッピーエンドなんか書いたって、どうせ格差もいじめも虐待もなくなんねーよ」と言わんばかりです。ひどく退廃的なところは「アウトレイジ」にも似ています。
疑問②なぜ悪役が痛い目に合わないのか?
「アウトレイジ」は全員悪人でみんな死にますが、浄土るるさんの作品では悪役が痛い目にあわないパターンが多いです。悪いことをしても普通に最後までそのままです。すごくフラストレーションが溜まります。
唯一、悪者が痛い目にあうのが、ぼくがこのマンガで一番好きな「神の沈黙」という作品です。この作品を読んでどこか胸がスッとしましたが、同時に暴力的な感情も芽生えた気がしました。
結論:隠された怒り
浄土るるさんの作品からは社会や無関心な人に対する怒りを感じます。「いじめや虐待はダメだ」と正面切って訴えるのではなく、「これが現実ですけど?」と読者へ問題提起しているんじゃないでしょうか?「いじめなんてどこでもありますけど?ムカついたら暴力ふるう家だってありますけど?」という扇動的な感じです。
本来は、浄土るるさんも作品の中で悪い人間を痛い目に合わせたいんだと思います。でもそれをせずに読者にフラストレーションを与え、怒りをますます助長させます。また、ギャグにしないことでより直接的に怒りを表現しているようにも思います。
まとめ
浄土るるさんの「地獄色」は先鋭的ですがかなりショッキングなので、人によっては悪い意味での刺激を受けてしまうかもしれません。しかし、背後に隠されているのは、社会の理不尽や暴力に対する怒りです。少なくともぼくはそう受け取りました。
若いのにこんな作品が描けてしまう浄土るるさんが心配ですが、めちゃくちゃ明るい人だったらいいなと願っています。
「地獄色」は小学館・ビックコミックスから発売されています。値段もお手頃だと思います。心して読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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