芦藻彬さんのマンガ『バベルの設計士』下巻が12月18日に発売されました!
「バベルの塔」の設計士に焦点をあてたところが新鮮ですが、微妙なできあがりになってしまった感じです。
あらすじや感想についてはこの先を読んでみてくださいね。
『バベルの設計士』概要
4000年前のメソポタミアの地。
ハムラビ王から命じられた難業に挑む設計士たちの物語――。
紀元前18世紀、古代メソポタミアの地。バビロンの王、ハムラビは全土統一を果たしていた。そして彼は、久遠の国家繁栄を確たるものとするため「太陽に届く塔」の建設を命じる…。
武人の家に生まれた宮廷設計士のガガは、ハムラビ王からの命を受け、ノアの末裔で天才設計士と噂されるニムロデを探しにディルムンの地へと旅立つ。もしニムロデを王宮に連れてこられなければ、待ち受けるのは無情な刑罰のため、それは決死の覚悟を持っての出発だった…。
4000年前に栄華を極めた都市バビロンを舞台に、前代未聞の超難題に挑む天才設計士たちの歴史浪漫譚。
建築学科出身の理系作家が描く、緻密で壮大は歴史スペクタクル!!
バベルの設計士(上) Amazon商品詳細ページより
『バベルの設計士』には「バベルの塔」、「設計」、「戦争」、「ハムラビ法典」などのテーマが見えますが、「ロマン」も「緻密」も「壮大」も期待しないほうがいいと思います。専門的な建築の知識もどこに生かされているのかわかりません。
「バビロン王朝ってもしかしたらこうだったかもしれない」というのをマンガにした感じで、それ以上ではありません。
登場人物
ガガ
若くしてバビロン一と自負する設計士。将軍である父には冷遇されている。
ニムロデ
ノアの末裔とされる天才設計士。人との会話がほとんどできず、図面を書くことに没頭しすぎて身だしなみがおろそかになっている。はちみつが大好き。
デボラ第一夫人
ハンムラビ王の妃でありながら、国家の転覆を狙う。
ハンムラビ王
メソポタミアを統一した王。
ストーリーに意外性がない
歴史マンガで重要な要素が意外性です。
『ヒストリエ』なら「古代にも類まれな智恵を持った人物がいたこと」、
『ヴィンランド・サガ』なら「軟弱な青年が王として覚醒すること」、
『雪花の虎』なら「上杉謙信は実は女性であったこと」。
『バベルの設計士』には意外性がありません。「古代でもこんな建築が可能だった」とか「ハンムラビ王は実は知性的で優しい王だった」なんていう描写があればよかったですね。『ゴールデンカムイ』の野田サトルさんの言葉を借りるなら、歴史マンガはしっかり調べてガッツリ嘘をつくのが大切です。そうしないとロマンは生まれません。
キャラクターに説得力がない
キャラクターも「なぜそんな人物なのか」、「なぜそんな考えを持っているのか」という説得力がありません。
例えば、ニムロデは身だしなみがおろそかになっているという設定ですが、見た目は小ぎれいで全然汚く見えません。ガガがニムロデの家を訪ねたときにその臭さに顔をしかめるという描写があるくらいです。また、コミュニケーションがとりにくいという設定ですが、登場時には普通にしゃべっているので変人っぷりがあまり伝わってきません。
他の登場人物に関しても、何かと大見得を切ってセリフを言い放つシーンがありますが、それほど大したことは言っていないので薄っぺらく見えてしまいます。
画力が足りない
致命的なのが特に人物を描くことです。
体の大きさや動きにリアル感がありません。キャラクターも描き分けできていない感じがします。
また、コマが変わると人物の配置も変わってしまっているように見えるなど、読んでいて混乱するところもあります。
唯一の救いは背景
背景は比較的しっかりと描きこまれていますね。魚や鳥、木や草などの動植物もよく描かれています。
歴史的な背景の設定もよかったと思います。バベルの塔のモデルとなったジッグラトは紀元前6世紀の建造物とされていますが、それより前の紀元前17世紀に持ってきたのは意外でした。
まとめ
『バベルの設計士』は古代メソポタミアを描いた珍しいマンガですが、それ以上のものではありません。
要素を入れすぎてしまった感じがあります。テーマを「古代の設計」だけに絞って描いたほうがまとまりがある物語になったかもしれません。
『バベルの設計士』は実業之日本社から上下巻で発売されています。興味があったら読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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