クリスマスに丸尾末広さんのマンガを紹介するというのも一興じゃないでしょうか。
こんにちは、きたはちです。
5巻以内完結や短編集をこよなく愛しています。
『天國 パライゾ』が12月11日に発売されました!『天國』はエログロマンガの巨匠、丸尾末広さん画業40周年を記念した一冊。宗教と戦争の残酷さを題材にした連作短編集です。
丸尾末広さんの作品を読みはじめようとする人よりも、ちょっと上級者向けの作品かと思います。もし丸尾さんの作品に興味がある方は、『トミノの地獄』や『パノラマ島綺譚』を先に読んだほうがいいんじゃないでしょうか。
丸尾作品は読み込むとかなり深みがあるので面白いですよ。
ただのお祝いムードではない、いつもと違ったクリスマスを過ごしたい人にはおすすめかもしれません。
内容や魅力、丸尾さんの他の作品との関連性、考察を語っていきますので、気になる方はこの先を読んでくださいね。
丸尾末広『天國』 概要
「最も苦しんだ者こそが、天國(パライゾ)の門を開くーー」
戦後の混乱収まらぬ頃。
汚穢と悲哀、最底辺の貧民窟で、寄る辺なき混血の少年は今日のみを生きる。
【ネンコロリ】
ナガサキとアウシュビッツを、ある宣教師と名もなき少年が繋ぐ。
惨たらしくも美しい地上の地獄絵図。
【オランダさん】
第二次世界大戦下の強制収容所。
逆境と抑圧、苦痛に塗れた獄舎に、神はいるのか……。
【童貞マリア】
日本漫画界が世界に誇る魔神・丸尾末広、画業40周年記念。
計5作を収録した、漆黒の作品集。
『天國』 Amazon商品詳細ページより
収録作品は次の5つです。
ディアボリク
戦災バカボン
ネンコロリ
オランダさん
童貞マリア
このうち、『ディアボリク』、『戦災バカボン』、『ネンコロリ』は戦災孤児のミチとタローを描いた連作、『オランダさん』と『童貞マリア』は実在した神父、マキシミリアノ・コルベを題材にした連作です。
『天國』はエログロが消費されることと、エログロが芸術として評価されることの両方に問題提起をした作品なのではないかと思います。
考察①戦争と丸尾末広
丸尾さんの作品では戦中や戦後を舞台にした物語が多く見られます。
今回の連作短編集は、「戦争の残酷さ」に「宗教」という要素を色濃く取り入れることで、エログロを消費することへの罪深さを読者に感じさせるのがねらいだったんじゃないでしょうか。宗教が人々を盲目にすることによって起こる残酷さ。それを真正面から批判するのではなく、エログロ作品として見せることで消費物として読むことへの問いかけをしている気がします。
そういった意味では、『天國』は「戦争×宗教」を中心に描いたいわば応用編。丸尾さんの長編で戦中を舞台にしている『トミノの地獄』を先に読んだほうがいいかもしれません。
考察②長崎とアウシュビッツと丸尾末広
丸尾さんは長崎県出身です。
丸尾さんの残酷な作風は、コルベ神父、そして原爆といったモチーフとのつながりを感じざるを得ません。コルベ神父は長崎を訪れ、後にアウシュビッツ強制収容所で亡くなっています。
『トミノの地獄』もやはり長崎を舞台にしているので、この『天國』自体が『トミノの地獄』をベースに作られた作品集といっていいと思います。
考察③時系列が逆?タローの謎
戦災孤児を描いた連作『ディアボリク』、『戦災バカボン』、『ネンコロリ』は発表順に収録されていますが、読んでみると時系列が逆のように思えます。しかし、時系列が逆だとしても疑問があるんです。
それはタローの秘密。タローに注目して読んでみると「本当に時系列が逆なだけなのか?」と思えてくるんです。
この3つの連作がループしているように思えて、不思議な混乱を生むんですよね。戦災孤児たちにとっての抜け出せない地獄を暗示しているようにも思えます。
考察④同じ話を二つの場所から描いている
『オランダさん』と『童貞マリア』は、いずれもコルベ神父がアウシュビッツ収容所で処刑された様子を描いていて、かなり似たストーリーです。
異なっているのは、『オランダさん』は長崎の少年がコルベ神父に思いをはせるという構図で、『童貞マリア』はアウシュビッツ収容所内部を描いている点です。
まるで同じ絵を何枚も残す画家のようです。芸術性や祈りのようなものを感じてなりません。
まとめ
『天國』は丸尾さんのルーツである長崎、そこから派生して宗教やアウシュビッツの描写にも挑んだ意欲作です。しかし、ベースは以前の他の作品にあるので、そちらを先に読んだほうがいいかもしれません。考察してみるとかなり深いのでぜひハマってみてくださいね。
『天國』はKADOKAWA・ビームコミックスから発売されています。コミックナタリーでは丸尾末広さんのWEB原画展も行っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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