丸尾末広さんの作品を初めて読む人には、この『パノラマ島綺譚』をおすすめします。
こんにちは、きたはちです。
5巻以内完結や短編集など、短いマンガをこよなく愛しています。
以前、丸尾末広さん画業40周年記念として、12月に発売になった『天國 パライゾ』という作品を紹介しました。
しかし、新刊の『天國』だけ読んでも丸尾さんの魅力を語れないと思い、他の作品も読んでみたのです。そんな作品の中で「これだ」と思ったのがこの『パノラマ島綺譚』でした。
『パノラマ島綺譚』概要
2009年手塚治虫文化賞受賞作! これぞ、猟奇と怪奇とエロスに満ちた、日本漫画の新たな宝モノ! 巨匠・江戸川乱歩の代表作にして最大の問題作を、エロティックでグロテスクな作風で世界的人気を誇る丸尾末広が、奇跡の完全コミック化!
パノラマ島綺譚 Amazon詳細ページより引用
丸尾さんのネットにおける評価の中で、「原作つきの作品のほうがいい」というのがあって、いまいち納得できなかったのですが、『パノラマ島綺譚』を読んで「ああそういうことか」としっくりきました。
この作品を読むと、江戸川乱歩と丸尾末広の親和性に驚かされます。乱歩の簡潔でレトロな文体は丸尾さんの絵と非常に相性がいいです。乱歩を描くために丸尾末広がいるとも、丸尾末広に描かれるために乱歩の作品があると言っても過言ではないでしょう。
登場人物
人見廣介
売れない物書き。大学時代の知人・菰田源三郎は今は紀州の大富豪。人見と菰田は昔から瓜二つだった。菰田の死を知った人見は、菰田になりすまし、莫大な財産を投じて巨大な遊園地「パノラマ島」を作ることを企てる。
千代子
菰田の妻。夫が息を吹き返したことを喜びながらも、以前と様子の違う夫に不審を抱いている。
魅力①美しい見開き絵
この作品の魅力はなんといっても美しい見開き絵です。「パノラマ」の名にふさわしいマンガですね。
丸尾さんのレトロでパロディにあふれた妖しい世界が広がります。
完成した「パノラマ島」はまさに男の欲望にまみれたワンダーランド。大人のチャーリーとチョコレート工場のような、遊園地の様々なゾーンを探検している気分になります。左右対称の構図が多く、キューブリックの映画を彷彿とさせます。やけに奥行きがあるのに、全てのものにピントが合っている不自然さ。丸尾さんならではの風景です。
魅力②昭和初期のレトロでダークな世界観
丸尾さんといえばレトロな世界観です。
『パノラマ島綺譚』の時代設定は大正が終わった直後からはじまります。日本的な雰囲気を残しつつ、西洋風のものを無理やり取り入れているミスマッチ感が堪らないです。そんな違和感のある世界に、人見の男としての欲望を詰め込んだエロティックなキャスト達。乱歩の官能的な表現をあますところなく表現しています。
原作と絵が本当にマッチしています。
魅力③倒錯的な主人公
このエロティックで背徳感あふれる遊園地を作り出したのが、主人公・人見です。
人見の人物像も魅力的なんですよね。何か大きいことをしようと思いながら、悶々とした日々を送る男。その人見が、ある日莫大な資産を手に入れることで自分の妄想を爆発させます。
悪い男ですが、最後までブレない。乱歩のキャラクターを丸尾さんが肉付けすることによって、より人間味のある人物になっている気がします。
最後のあっけない散り際も見事です。
『パノラマ島綺譚』は緻密さと刺激が足りない?
丸尾さんの作品のレビューを読んでみると、必ず一人ぐらいは「昔のほうがよかった」とか「衰えた」とかいうレビューがあります。これだけ緻密に描かれている『パノラマ島綺譚』も例外ではありません。
確かに昔の絵柄とは少し変わってきてはいるようですね。『パノラマ島綺譚』も他の作品に比べればグロテスクな表現が少ない気もします。
最近の作品に低評価を下している人たちは、おそらく昔からの丸尾末広ファンなのでしょう。古参のファンにとっては、だんだんと洗練されていく作風に我慢ができないんだと思います。
逆に言えば、刺激も少な目で絵が洗練されているのでそれだけ読みやすいということも言えるでしょう。
まとめ
『パノラマ島綺譚』は、まず絵に圧倒されます。丸尾さんのレトロでエロティックな世界を堪能できる作品です。江戸川乱歩の原作を、絵の構図、人物描写によってうまく肉付けしています。グロテスクな表現が少ないところも初心者にとっては最適だと思います。
この作品を読むと、他の作品との関連性も見えてきて、丸尾末広という作家の全体像をつかみやすくなりました。作品ごとにテーマをもって取り組んでいる、アーティストのような漫画家さんだと思います。
『パノラマ島綺譚』ぜひ読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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