ノスタルジックだけど毒のある作品が読みたい
という人には、高野文子さんの「絶対安全剃刀」をおすすめします。
「絶対安全剃刀」は1982年に白泉社から発売されたマンガ短編集。
高野文子さんにとっては初の書籍化作品です。
高野文子さんの作品は、本によって全然違う絵柄なので読んでいて楽しいですね。
特にこの「絶対安全剃刀」は1つの本の中でも話に合わせて絵柄を変えています。
「アネサとオジ」という話では極端にデフォルメされた絵、
「早道節用守」という話では和風な絵柄に仕上げています。
約40年前の作品なので絵柄に時代を感じますが、逆にノスタルジックさがいいですし、絵柄がストーリーにマッチしているので違和感がないですね。
収録作品が17作品と多いのもうれしいです。
「絶対安全剃刀」20代高野文子 とがった頃のマンガ短編集とは?
こんな内容になってます。
・日本的な言葉のリズムが心地いい
・モチーフが刺激的
・少女の不思議な内面に迫っている
・作品一部紹介
・購入について
日本的なことばのリズムが心地いい
「絶対安全剃刀」の収録作品で共通しているのは日本的なことばのリズムです。
七五調や繰り返しが多用されていてまるで絵本のよう。
モチーフが刺激的
「絶対安全剃刀」は基本的にかわいらしい絵柄ですが、刺激的なモチーフを扱っています。
表題作の「絶対安全剃刀」は若者が自殺を計画する様子をコミカルに描いています。
また「1+1+1=0」は両親がベッドで愛し合う様子を見てしまう子どもの話です。
話の内容がとがっているので今読んでも新鮮ですね。
少女の不思議な内面に迫っている
小学1、2年生ごろの女の子って何を考えてるかわからないところがありませんか?
かわいらしいものが好きだとか、ませてるだとか表面的なところはわかるんですが、死についてすごく興味を持っている一面があったり、悲しくないのに急に泣き出したりするんですよね。
「絶対安全剃刀」ではそういう女の子の不思議なところを表現しています。
登場人物の意味がわかりずらい言動も「女の子ってこういうところあるよね」となんとなく納得しちゃうんですよね。
作品一部紹介
「絶対安全剃刀」に収録されている作品を一部紹介しますね。
田辺のつる
認知症のおばあさん「田辺つる」さんの物語です。
しかし、つるは一貫して小さい女の子として描かれています。
つるは子ども家族と住んでいます。
年頃の孫・るりかに邪険にされる様子がかわいそう。
認知症の人を描く観察眼が実に鋭いですね。
私は介護で認知症の人に接してきたのでわかります。
認知症になると子どもがえりするだけではなくて、いろんな時代の自分が混濁するんです。
「田辺のつる」は人の良心に訴える作品ですね。
「おばあさんの外見が子どものようでも同じ扱いができるのか」
という問いを突き付けられます。
玄関
「玄関」は小学生の女の子・えみとしょうこの物語です。
ソーダ水で仲が良さそうに遊ぶ2人の笑顔が描かれながら、
(しょうこと仲良しなわけじゃないです)
というえみの心の声にどきっとします。
やがて、えみが抱いている複雑な感情の理由が明かされていきます。
「玄関」は「高野さんって小学生の時の記憶があるんじゃないかな」っていうくらい表現が鮮明なんですよね。
主人公のえみの目を通した風景をそのまま見ているような感覚になります。
はい―背筋を伸してワタシノバンデス
ボーイッシュなメガネの女の子が銭湯に入る話です。
女の子は女性を嫌悪していて、(女なんか大っ嫌いだ!)と心の中で叫びますが、ふと横に座った老婆に心が奪われます。
大胆な構図や体に沿って描かれた文字などの表現が斬新。
老婆の裸体やお風呂の湯気がどこかデザインチックに描かれているのもおもしろいです。
電子書籍はない!
高野文子さんの書籍は「ドミトリーともきんす」以外電子書籍化されていません。
「絶対安全剃刀」はネット通販を利用してくださいね。
まとめ
「絶対安全剃刀」は当時20代だった高野文子さんのとがった表現がみられておもしろいです。
日本的なことばのリズムにはノスタルジックな親しみを感じますね。
昔のマンガですが、表現やモチーフは新鮮で読みごたえがありますよ。
言い表せない少女の内面を表現している点も挑戦的です。
ぜひ読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
紙の本はhontoでも探してみてください。
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