本が好きで好きでたまらない!
という人には森泉岳土さんの漫画短編集「セリー」をおすすめしたいですね。
表題作の「セリー」には素敵な本の一説がたくさんちりばめられています。
最近本を読んでいない人も久しぶりに本を手に取りたくなるかもしれませんよ。
この記事では「セリー」の収録作品のあらすじと各作品の紹介、「セリー」全体を通した絵の印象と感想を紹介していきますね。
「セリー」収録作品あらすじ&解説
「セリー」は森泉岳土さんの漫画短編集です。
2018年にKADOKAWAから発行されています。
「セリー」の収録作品はつぎの通りです。
セリー
手牛の血
あの日あなたと クチン 2015
あの日あなたと ヴェネツィア 2016
あの日あなたと 岡山 2017
全192ページ中、表題作「セリー」が140ページを占めています。
セリー あらすじ
世界の終末。
カケルはアンドロイドのセリーと暮らしていた。
カケルの邸宅にはたくさんの本があり、カケルはセリーに本を読み聞かせてもらいながら暮らしていた。
しかし、ある日セリーに不具合が生じてしまう。
セリー 感想
「セリー」には本を読み聞かせるシーンがたくさんあり、既存の本の引用が多く出てくるのですが、そのどれもが詩的で美しい文章なんですよね。
本を読みたいな
と素直に思える短編です。
セリーが長い時間を過ごす中で、本によって豊かな感情が芽生えていく姿がとても美しいですね。
手牛の血 あらすじ
異国の地。
男が王宮に羊をおさめる旅から帰ると妻と幼い娘は死んでいた。
川の水に異変を感じた男は川をさかのぼった。
そこには死にかけの巨大な「手牛」がいたのだった。
手牛の血 感想
「手牛」というのは牛の頭に手がくっついた巨大な生き物です。
「手牛の血」は黄緑色の紙に描かれていています。
紙の色が違うだけで異国の地の雰囲気が伝わってくるようですね。
死にゆく手牛の目と男のやりきれない表情が印象的な短編です。
あの日あなたと
森泉岳土さんがマレーシアのクチン、イタリアのヴェネツィア、岡山を旅したときのことを綴った短編エッセイ漫画です。
ベタもトーンもなくて線だけで描かれているのに、顔の特徴や街の雰囲気が伝わってくるのがすごいですよ。
誰といてもどこにいても、一瞬一瞬が大切なんだなと思わせてくれるような短編です。
こんなふうに時間を感じられたら素敵だろうなと思いますね。
こんな大人になりたいです。
大林監督との思い出
作者の森泉岳土さんは2020年4月に亡くなった映画監督の大林宣彦さんの義理の息子さんでもあります。
「あの日あなたと ヴェネツィア 2016」は大林監督が極東映画祭で生涯功労賞を受賞した際、ヴェネツィアで過ごした思い出を描いています。
森泉岳土さんの最新作「爪のようなもの・最後のフェリーその他短編」でも大林監督を描いた短編があるので合わせて読んでほしいですね。
どちらも短い作品ですが、大林監督の人柄の素敵さも伝わってくるし、森泉さんも大林監督に心底惹かれていたんだろうなと感じさせます。
「セリー」の森泉岳土さんの絵 背景と人物について
森泉岳土さんは紙に水で線を描いて墨を落とすという独特な技法を使っている漫画家さんです。
この本の収録漫画についてはベタが少ない印象です。
ベタが少ないことで、どのマンガとも違う幻想的な雰囲気が出てるんですよね。
また、背景の奥行きと広がりを感じます。
「セリー」では主人公が大きな邸宅に住んでいます。
ほとんど線だけで表現されているのに部屋の広がりや天井の高さが伝わってくるんですよね。
多くの本が置かれている書斎のシーンは圧巻です。
人物の表現も素晴らしくて、顔の表情だけでなくて体の重さが伝わってくるようなリアルさがあります。
まとめ
「セリー」は読書や旅にしたくなるような短編集だと思います。
森泉さんの絵の美しさもさることながら、漫画以外のものの素晴らしさに気づかせてくれるような気がします。
やさしいアンドロイドが出てくるSFというつながりで、島田虎之介さんの「ロボ・サピエンス前史」もあわせて読んでほしいですね。
森泉岳土さんの「セリー」ぜひ読んでみてください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。きたはちでした。
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