冬に読みたい1巻完結のマンガを紹介します。心も体も温まるような作品から冬の寒さがしみいる作品まで様々。コタツに入りながら、ストーブにあたりながら、ゆっくり読んでください。
アンダーカレント
豊田徹也さんの長編。
銭湯を営む若い夫婦。しかし、夫が突然、失踪してしまいます。
残された妻・かなえは気丈にふるまいながら銭湯を続けますが、肉体的にも精神的にも限界が。
組合の紹介で働くことになった謎の男・堀や、うさん臭い探偵・山崎が、かなえの空虚な心にすっと入ってきます。
温かい銭湯が舞台ですが、主人公・かなえの心の奥にある冷たいものが感じられるストーリー。物語が進むにつれて季節が変わり、ラストシーンには冬に移ろっていきます。
マイ・ブロークン・マリコ
平庫ワカさんの短編集。
親友の死を知った主人公・シイノが、親友の思いを遂げるために逃避行の旅に出るストーリー。
シイノの吐くたばこの煙や白い息。裸足で走る地面も冷たそう。鼻水も垂れちゃってなんとも寒そうです。
シイノのガムシャラさやどうしようもない不幸さを、寒さによって上手く演出しているんですよね。最後には少し救われる展開になっています。
村上春樹の「螢」・オーウェルの「一九八四年」
村上春樹の短編、『螢』とジョージ・オーウェルの『一九八四年』を漫画化した森泉岳土さんの作品です。
『螢』のほうは題名こそ『螢』ですが、冬の寒さを感じられる寂しいラブストーリー。
一方、『一九八四年』は村上春樹さんの『1Q84』の元にもなった作品で、独裁国家を舞台にしたディストピアSF。
『螢』のほうは冬の寒さが美しく、『一九八四年』は架空の街の機械的な冷たさを感じられます。
森泉岳土さんは墨と爪楊枝を使って描く独特な技法が特徴。この作品では、降る雪のやわらかさや街の冷たく重々しい雰囲気を、墨が持つ独特のにじみによって表現されています。
人間の心についても考えさせられる2つの短編です。
爪のようなもの・最後のフェリーその他の短篇
こちらも森泉岳土さんの短編集。
『冬の偶有的エトセトラ』という作品が冬にぴったりの作品です。中学生の男の子と女子高生のかわいい幽霊が出会う話で、読んでいてほっこりとさせられます。
他の作品もおしゃれで雰囲気がある作品ばかり。ストーブで暖まりながら読書灯のあかりだけで読みたい一冊です。
プレゼントフォーユー
四宮しのさんの短編集。
恋人、友人、家族からもらったプレゼント。形があるものもありますが、形のないものもあります。
そんな大切な人からもらったプレゼントをテーマにした14編が収録された一冊。
温度の温かさよりも気持ちの温かさを感じるストーリーです。
温かい時期が舞台の話もありますが、なんとなく寒い季節の話が多いような気もします。
イン・ザ・ポケット 谷和野よみきり集
谷和野さんの短編集。やわらかい絵柄で女性の成長や不思議な世界を描いていて、大人の少女マンガという感じです。
丁寧でふわっとした絵柄にあたたかみを感じ、ストーリーもやさしいものばかりで心が温まります。
『ざわざわ毛糸』は、少しつっけんどんな一人暮らしのおばあさん・サンダーばあと村の少女・フラーの話。毛糸をモチーフにしたやさしい話です。動物も出てきてメルヘンな感じもあります。
光と窓
児童文学を原作にしたカシワイさんの短編集。
小川未明の作品を漫画化した『金の輪』は美しくて幻想的な作品。少し昔の日本のある村を舞台に、病弱な男の子に起こった、寒い日のある出来事を描いています。
ベタがあまりなくて白いページが多いのですが、物足りない感じはしません。意味のある余白が雪の白さや日の光のあたたかさを感じさせてくれます。
明治から大正の日本の児童文学作品がかもし出すもの悲しさが、静かな冬の日にしみいります。
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